最近考えていることが一つある。 何が嬉しくてこんな仕事をしているのだろうか。 「…はぁ」 ため息ついたって仕方ないのは分かっているけどさ… 「どうしたんだよ、チャン」 隣の金髪天然パーマにそんなの言われたって仕方ないけどさぁ… 「なんで男装しながらホストしているんだっけ…」 「今更かよー」 そう、今この場は歌舞伎町で1、2を争うほど有名な"万事屋"の控え室。 そのクラブで自分は"ホスト"として働いている。 …性別はれっきとした"女"だが。 「…真面目になんでだっけ」 「痴呆が進んじゃってんのー？チャン」 俺よりピッチピチに若いのに、とからかってきたから金髪天パの腹を殴った。 …ウゼェ。 …あ、そういえば…… 最初は小遣い稼ぎの類で働き始め、 なんか妙に人気になって、 あれよあれよとクラブで1、2を争うホストにまでなったんだっけ。 ……オーナーの神楽が辞める機会を与えなかったのもあるけど。 自分、未成年なんですけど。 バレたら絶対、捕まるじゃん。 …神楽はそれを承知の上で雇っているから恐ろしい恐ろしい……… 「金時ィー…また臭い」 「あー…今日は運悪くオバハンに当たったからなァ…」 匂い直しにイチゴ牛乳ー、と冷蔵庫を探り始めた金髪天然パーマ。 彼はこのクラブではナンバー1ホストの、金時。 本名は知らない。 「そういうチャンこそ臭くねーか？」 「…まあ、確かに」 イチゴ牛乳でもどう？と、パックごと渡されたけど… アレは邪道だと思うので拒否った自分は、ナンバー2ホストの。 …実は本名だったりする。 見た目が男にしか見えなく、 高校の制服のスカートを履いていても女装にしか見られない程、男らしい。 ……と、親しい女友達からは口を揃えて言われる程だ。 そんな格好を見られて、 ホストとしてスカウトされた自分。 …なんか悲しくなってきた。 背は伸びすぎて170ちょい。 声は元々低い方。 髪もバッサリショートより短め。 口調もこんなんだから男に見えるのは仕方ないけどさ… 「世間一般の女は恋愛に走っているのかなァ…」 縁もなにもないこの世界に走ったのが悪かったのかなァ、とボヤいてみた。 「チャンは？」 「そりゃあしてみたいとか考えた時もあるけどさ… デカ女に女男って言われてそのままポイがいつものオチだよ」 認めたくないけど、 無駄に女からはモテるからな…男以上に。 生まれつきだからしょうがないけど、 そこまで言われる筋合いはないのにさ… そんなことを考えていたら、 「そんじゃ、俺と付き合ってみるか」 と、急に告白された。 前触れもなく。急に。 一度も指名勝負で勝てなかった金時から。 そして自分は、 「………………は？」 我ながら随分とマヌケな反応をしたと思う。 過去最高級に。 どこをどうやって聞き間違えてそんな結論にたどり着くんだよ、この天パは。 そんな顔を見て金時は、 「俺、今フリーだしぃ？ 化粧臭い女を相手にするよりも楽しそうだしぃ？」 ニヤついた顔で投げかけてきた勝負まがいの言葉。 ケラケラとからかった笑いと共に。 馬鹿が。ドＳが。この天パが。 その口調も明らか馬鹿にしているけど… だけど、 「面白そうじゃん。付き合おうか」 笑いながら出したのはYESの返答。 「ぶふっ…………え？」 その時、心底ビックリした金時の顔は覚えている。 いっつも営業スマイルをしていたから、珍しさでかな？ イチゴ牛乳が霧のように噴き出したのもあったからかな？ 自分は心底笑えた。 それに 今更冗談だ、っていうのは無しだから。 誘って来たのは金時の方からじゃん。 「言っておくが…付き合うのは、 自分も今フリーだし、 ケバい女共の相手をするより楽しめそうだからだ」 決して金時が好きだから、ではない。 最近退屈で仕方なく、 "面白さ"を求めるためだ。 つまりは、遊び心のため。 「後悔すんなよ？チャン？」 フッと戻った表情。 さっきと違うのは真剣さ。 それと、 「何を、「本気で惚れちまうぜ？」 いつもと違う目つき。 死んだ魚の目じゃなくて、生き生きとした魚の目。 …どこからそんな自信が湧いてくるんだよ、この金髪天パは。 トンとイチゴ牛乳のパックを机の上に置いた右手は そのまま自分の頬に近づいてきて、 両手で引き寄せられて、 「俺が落とせなかった"女"はいなかったんだから」 そう耳元で甘く囁いた後、 間髪つけずにしてきたのはまたもや甘いキス。 イチゴ牛乳の、甘い味。 感想としてはそういえばさっきイチゴ牛乳飲んでたな、ぐらい。 なぜなら、 これくらいのは化粧臭いケバい女の頬に金時も自分もやっているから。 気持ちの入っていない、挨拶ぐらいのものだから。 だけど、 キスが終わって離れようとした時に、 またもや耳元で言われた言葉に、 「知ってるか？」 不覚にも、 信じたくないが、 ときめいてしまった自分がいた。 「ホストって好きな女の子にしかキスしてくれないってさ」 店に来る女はよく言うぜ？ そう呟かれた。 (…え？ってことは何？どういうこと？) (さぁーてと、アフターどうすっかなァ…)